圧倒的に強い、絶対に勝てないという事以外は何も分からない生物。

異様にでかく、闇に包まれている。

顔はなく表情も一切読めない。

ただ立って動かずこちらをじっと見ている。


私は彼を認識した途端に足を止めた。

恐怖に襲われた。

怖い。

逃げたい。

しかし、逃げてはいけない。

立ち向かわなくては。

道の上をまっすぐ歩き続ける。それが私のやるべき事。

彼は私にとって障害なのだ。

私はどうやってでも、まっすぐ歩き続けることが必要だった。


だが弱い。私は弱い。

丸腰で戦う術を持っていない。

彼に攻撃されれば確実に死ぬ。

できれば不要な争いは避けたい。

なぜなら私はとても弱いからだ。

私は私の持っている声でうたい、言葉の力を身に纏った。

本当に好きな歌。私を勇気付け、彼に威嚇する。

近づくな。

攻撃してくるな。

無用な争いは無駄だ。

決して彼の方は見ず、ただ進む道をまっすぐに見つめる。

バリケードを張りつつ、いかにも彼の存在に気づいていないように通り過ぎようとする。


しかし来るなと思う時に限って相手は襲ってくる。

至近距離で。

彼が動いたと認識した瞬間、私は全力で逃げる。

逃げて。逃げて。逃げて。逃げて。逃げて。逃げて。逃げて。逃げて。

振り向かず、ただひたすらに逃げる。

いつまで逃げれば良いのか。

彼は追いかけてきているのか。

何も分からぬまま、ただ逃げ続ける。

生き延びるために。


ここに在るのはあなたと私。

ただそれだけ。